思う心

時々、無性に彼をめちゃくちゃにしたいと、思うことがある。

「先に休息を取っていい」
「閣下が先にお休みください」
ライアンとトレス中佐のやり取り。
「構わない。考えたいことが、あるのでね」
「・・・・判りました。2時間で戻ります」
「急がなくても、休む時は休むよ」
苦笑混じりで、少し微笑んでいる。
以前には、俺達には・・あまり笑顔を見せない人だった。
「ミズノお前も先に・・・」
「いえ、私も後で大丈夫です」
即座に俺は答える。
(少しでも、側にいる方がいい)
「特に相談事もないと思うが」
参謀としては、指揮官の補佐と相談・助言そして、反論。
「構いません」
「わかった。無理はするな」
指揮官の顔をしている。冷静な表情。
「では、先に休息を取らせていただきます」
トレス中佐が敬礼をし、ブリッジを出て行く。
「少し、考え事がある」
「判りました、控えてはおりますので・・」
用があれば、という言葉は飲み込んでおく。判っていることだ。

冷静で、野心家で。自信家で、能力もあって・・。
羨ましくもあり、恨めしくもある。
乱れたところを、見た記憶はあまりない。
士官時代からいつも冷静沈着で覇気があって。
いつも自力でなんでもやってのけていた。
「ジェイナス」というHEAVENの5大財閥の出でもある。
彼の能力と、相俟って人を惹きつける。
だから彼の周りから、人が絶えたことはない。
俺だって、その一人だけれど・・・・。

誰に対しても、ライアンはいつも同じだった。
優しいけれど、叱責もする。
仕事に関しては・・無条件に厳しい。
彼の弱音を聞いたことが無い。
彼の悩みを見たことも無い。
彼だって生身の人間で・・・・。
弱いところは、ある筈だというのに・・。

「どうした?心配事か?」
士官席から、声をかけられる。
「あ・・いや・・違い、ます」
「そうか?」
うっすらと、微笑む。以前には見せなかった表情。
トレス中佐を幕僚として迎えてからだ・・・・。
「ぼんやりするようなら休め。いざという時使い物にならなくては意味が無い」
「ええ。大丈夫です」
「それなら、いいが」
視線を逸らし、髪を掻き上げる。癖のないダークブラウン。
意志そのままのように、少し切れ長な強い瞳。
身長の割に、細い・・と思う。軍服の幅が余っている。
少し、伏せられた睫は意外に長い。

「・・・私に、言いたいことでもあるのか?」
視線を合わせず、声。
じっと、見ていたことに今更ながら自分で気付く。
「い、いえ・・何でも、ありません」
「いつも言っているが、俺は狭量になるつもりはないからな? 言いたいことがあるなら、はっきり言え」
「判っています」
「それならいいがな?」
口調は信じていない風だ。
そんなことじゃない。言いたいことがある訳じゃ、ない。
「悩み事なら、相談に乗るが?」
表情を変えず、ライアンが言う。
「いえ。本当に、自分の問題です」
「そうか。なら自分で解決しろ」
「はい」

例えば、今俺が「貴方を押し倒したい」とか言ったら。
どんな反応を返すだろう?

・・・俺、何を考えたんだ?今・・・。
「戻りました。閣下、ミズノ大尉。お休みになってください」
トレス中佐が戻って来た。
「ああ。そうさせてもらおう。ミズノも早く休めよ」
「は、はい・・・」
ライアンの後ろ姿を見送る。
「大尉もお疲れでしょう?早くお休みなさい」
微笑んでトレス中佐が話し掛けてくる。
「は、はい・・そうさせて、いただきます」
辛うじて、俺は答える。
俺は、自分の思考に自信が無くなって来た。

ライアンは、いつも悠然としていて。
だから時に「弱音くらい言え」と、言いたくなることもあったし。
「少しくらい頼れよ」と・・・思ったこともある。
時々、いらいらした。
それが、そうしたい・・ということだったんだろうか?
彼を、めちゃくちゃにしたら・・。弱いところも、見えると?
だけど、もしそうしたら。彼はきっと許さないだろうけれど。

− END −

<<あとがき>>
ぐるぐるぐるぐる。
まさに永久ループ的な話になってしまった(^-^;
「あまりに強い人は、見ていて不安になる」 そんなカンジでしょうか。ライアン。
実際彼は、そんなに強い人ではない訳ですが。
でもその前に、ミズノではライアン押し倒せまい(^-^;;


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