秘めた想い

地上勤務は、俺にとっては余り嬉しいものではない。
家族に会えるのは嬉しいことではあるが、それ以上に”家”の事情が付いて回る。
本来、俺には縁のない筈のそれを明確にする為にも今の仕事に就いた筈なのだけれど…
『ごめんなさい。貴方がそういう類の集まりが好きではないのは知っているのだけれど』
申し訳なさそうに貴女に言われたら、俺には嫌だとは言えない。
「構わないよ、姉さん。顔を出してくるだけで構わないんだろう?」
『ええ。今回は本当に私からだから…』
そう、以前に母や叔母(と言っても義父の姉だが)からどうしても知人のパーティに出てくれと言われた時に
俗に言う見合いの相手がそこに待っていたことがある。
それ以来、不用意に家に戻らないようにしているのは判っているからだと思う。
時間と場所を聞いて、電話を切る。
『パーティが終わったら、お話を聞かせに家に来てね?ライアン』
しっかりと釘を刺すことを忘れないのはさすが姉さんだった。

そんなパーティで、やはり俺と同じように最近は特に出ていないであろう人に会った。
「珍しいですね。グラント閣下」
「お前こそ。それと閣下はいい。仕事中でもない」
しかも、わざとだろう?と目が言っている。勿論、そうなのだけれど。
「判りました、アーサー。でも最近はあまりパーティなどは出てないと聞いてますよ」
「ああ。まあな。お前がいるということは、セシルも一緒か?」
「いいえ。その姉に急遽、代理で出てこいと言われたもので」
「…そう、か」
珍しく、はっきりとがっくりしてるのが判る。
「セシルと何か約束をしていたんですか?」
「いや、そうじゃないが。最近はあまり会う機会がないからどうしているかと思ってな」
姉のセシル、セシリアーナとアーサーはそういえば昔は仲が良かったなと思い出した。
この人が浮名を流してても普通に2人ともしていたから付き合ってるとかではない筈だけど、
いつの頃からか、あまり一緒にいるのを見なくなったな。
アーサーはグラント家の跡取りだし、俺とセシルは今はジェイナスだけど、ジェイナスの血は引いていないから…
もしかしたら何か言われたのかもしれない。
「元気ですよ?と言っても、私も家に余り帰れてはいないのですが」
「仕方ないな。今は細かい混乱が連発しているし」
「ええ。お陰で昨日、1週間遅れで漸く帰還できたところです」
「アーサー様」
と、声をかけてきたのは親子と思しき女性。これは逃げるのが妥当だろう。
「では、アーサー。私はこれで」
「あ、ああ。ではな」
逃げたな、と目で訴えられるが、俺もとばっちりは御免だから許して貰おう。
しかも、香水の匂いがきつすぎて俺には10秒も耐えたくない環境だ。
遠巻きにその後を見ていたけれど…
何と言うか、体をべったりと摺り寄せて話す女性だった。
(あれはアーサーが嫌いなタイプだよなあ…)
そういう俺にも何人か挨拶に来た人がいたけれど、挨拶もそこそこに上手くかわすことが出来た。
これ以上の長居で、逃げられないのも困るし…主賓に挨拶をして帰ろう。
今日はアーサーもイリスもいたから、俺まで番が回ってくることはそうないだろうけど。

「ただいま帰りました」
「まあ、珍しいこと!いつもは出発間際にしか挨拶に来ない子が」
おかえりなさい、と抱きしめた後にしっかり母に釘を刺される。
「今日は姉さんに報告に来ただけで、直ぐに宿舎に戻りますよ」
「相変わらず忙しいのですね。お兄様」
「ただいま。アリシア、元気そうだね。身長も少し伸びたかな」
「おかえりなさい。急にごめんなさいね、ライアン」
「ただいま、姉さん。具合は大丈夫?」
「ええ。平気よ。ありがとう」
「貴方が帰ってくるのが判っていたら、お父様も早く帰ってきたのに」
「義父さんこそ忙しい人なんだから、そういう訳にもいかないよ。母さん」
相変わらず、女性陣の出迎えはにぎやかだ。
難題のもう1人はといえば、ああ…そこにいたか。
階段の上に視線を投げれば、こちらをにらんだ金髪に緑の目。
「ただいま。煩かったかな?」
「別に。それにしてもずいぶんと急ですね」
「姉さんに話があっただけだから、直ぐ帰るよ」
「僕には関係ないけどね」
言ってきびすを返して部屋に戻っていく。
嫌なら出てこなければいいのに、可愛いものだな…と思ってしまう。
「エリック兄様ったら!」
「お茶を入れるから居間へいってらっしゃい。ライアン」
「ありがとうございます」
「…外では仕方がないとしても、家では普通にしてらっしゃい」

居間で母の入れた紅茶を飲みながら、今日のパーティの話をする。
「かなりの人がいらしてましたよ」
「それはそうでしょうねえ。あちらの跡取りの方の婚約披露ですものね」
「アーサーに会いましたよ。姉さんに会えなくて残念そうでした」
「そう。やっぱり来ていらしたのね」
ふっと視線を逸らしたのは、やっぱり俺に代理を頼んだのは故意だったのかなと思う。
「以前は家にも遊びにいらしてくださったのに、最近はお顔も見せてくださらないですよね」
「仕方ないわよ?ライアンでもこれだけ来れないのですもの」
……それは完璧に、俺が家に戻らないのを判って言っているのだが
「お兄様もいつもお忙しくお帰りになられるから…寂しいです」
半分だけ繋がりがあることになっている妹は、屈託なく俺に懐いてくれている。
「すまないな。余り俺は器用な方ではないから、まだまだ仕事がたくさんなんだよ」
「…嘘ばっかりねえ」
すかさずセシルが言うが、聞こえない振りをしよう。
「姉さんもアーサーとは暫く会ってないんですか?」
「そう…ね。去年のクリスマスにあちらに訪問したときにご挨拶したかしら」
挨拶、か。しかもグラント本家でなら、本当に挨拶なんだろうな。
うん。やっぱり俺の勘違いじゃなく、気にしてるよな。それもどっちもだけれど。
俺がどうにかしてやれる訳じゃないけど…どうするか、だな。

義父が帰って来たのを迎え、もう帰るのかと寂しそうに言われたけれど(幾つですか。義父さん…)
明日も仕事だからと、家を出てきた。
あれ以上長居すると1人、不機嫌が更に募るのがいるしな。
真っ直ぐに宿舎に帰るのも勿体無い気がして、前に一度行ったことのあるバーへ行くことにした。
少し高めではあるが、1人でも落ち着いて飲める店だ。
そこで、俺は珍しい姿を見てしまう。
「アーサー…」
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