(落ち着こう…)
少しの間、閉められた扉を見ていた僕は、我に返った。
取り敢えず。確か、午後に誰かに会わせる。そう言っていた。
拒否権なしでええと…生徒会書記兼会計?何をするんだよそれ。しかも何で兼務?
自慢じゃないけど、僕は人付き合いが上手い方じゃない。
だから昔からそういう役職とかというものとは無縁だったし、無理だと思う。
「どうして、どこからそういうことに…なるんだ?」
一方的に言われたことだけど、約束してあるなら僕が外したら失礼になる…よな
仕方がない。午後…その人に会って無理だと言おう。
なるべく自分の中では前向きにそう考えて落ち着いた。
もう1つのことは
からかわれてる、だけだよな。そうに違いない。
「杳。いる?」
今度はノックと共に扉を開けて入ってきた。
「いるけど、ノックが先だろ」
「そうだね。ごめん。ちょっとだけ下心だったね」
「…は?」
下心?何のことだ???
やっぱりこいつ…変だ。
「朝にも言ったけど、ちょっと付き合って?」
「誰かと会うんだよね?」
「そう。生徒会長とね」
そうして連れて行かれたのは、数日後から通うことになる校舎の一室だった。
『生徒会室』のプレートが扉に貼られていた。
「淋、入るよ」
「開いてるよー」
リラックスした、明るい声が中からした。
「いらっしゃい!はじめまして」
窓際の席に座って迎えてくれたのは人懐っこい笑顔をした人だ。
「僕は矢作淋。一応生徒会長を前期中やるからよろしくね」
自己紹介されたら、ちゃんと返さないとだよな。
「あ、ええと。桂木杳といいます。だけど、どうして僕が…生徒会に?」
頭を下げて礼をして、頭を上げたら何だかじーっと見られていた。
(な、何だろう…??変、なとこないよな僕)
と思っていたら、突然満面の笑みで
「一緒に頑張ってくれない?」
「え?あの?僕、は…。こういうの向いてないし」
「大丈夫だ。別に、人前で話せとかいう訳じゃない」
後ろから、肩を組むようにしてアーネスト(…だったよな)も笑顔、だけど
こいつの笑顔は何だか信用できない、気がする…のは考えすぎ?
「うん。書記兼会計だから基本的には雑務が多いし大変だと思うけど」
「私たちも勿論、フォローはするし。他にいい人材がいれば頼むことも出来るしね」
他に、って。僕がいい人材な訳じゃないと思う、けど?
「杳は十分、私たちの力になってくれると思う」
…僕の考えたことを見越したような答え
「ね、ダメかな?」
う…。こっちはなんだか、こう…捨てられた犬みたいな目で…
「拒否権、ないんだけどね?杳」
み、耳っ!耳元で小声で言うなっ。くすぐったい…。
「拒否権がないって…」
「前期は暫定生徒会だし、好きにしていいって許可貰ってるからね」
…だからって!
「頼むよ、杳?」
だ…だからこいつはっ
「あの、な。耳元で喋るの…」
「ああ、ごめんね。感じちゃった?」
か…ってなに?!
「アーニィ」
「はーい。悪ふざけは程々に、ね」
ぱっと、僕の肩から手を離して離れる。
「でも、一緒に頑張って欲しいのは、本当だからね?」
綺麗な笑顔、ってこういうのを言うんだ…。って柄にも無く思った。
いや、外見だけのことで、絶対…裏があるんじゃないかって、思うけど
「あの、僕も杳って、呼んで構わないかな?」
「え?あ、うん。いいけど」
「ありがとう!それで、ね。僕らと一緒にやってくれる?」
拒否権、ないんだろ。でも、聞いてはくれるんだ。
「何をするのかわからないし、できるかどうかは保証、できないよ?」
仕方ない、じゃないか。
頼まれたら嫌とは言えない。
「え。じゃあ」
「半期だけ、なんだよね?出来る限り協力するよ」
「ありがとう!」
と、矢作くんは椅子から立ち上がって僕の近くまで来て
「これからよろしくね」
ぎゅっ
「!?」
身長があんまり変わらないからなのか、首に抱きついてきた
「ずるいなぁ淋」
「ずるいのはアーニィでしょ。肩抱いてこそこそとさー」
ええと、ずるいとか…何のこと?
「こんな可愛いんだったら先に言ってよー」
「嫌だね」
ぐいっと、さっきと同じように肩に手を回されて
「ええと、矢作…くん?可愛いとか、何?」
恐る恐る聞いてみる。
「え?杳が可愛いって話?あ。淋でいいからね?」
何で?そういう形容詞は寧ろ矢作くんの方だと思う。
「淋のは外見だけだからな?」
「何さー。自分だって外見で騙すくせにー」
…またなんだか、考え読まれてる気がするんだけど…
いや、それよりも。この現状どうすればいいんだろう??
「兎も角、抱きついてるのを離してあげろよ?淋」
「アーニィこそ」
「2人とも、離してくれるといいんだけど」
離れてくれないと身動き取れないし
「「いや」だね」
何だか、高校生活が本当に不安になってきた…
2010.10.30
*** comment ***
話は進んでませんね^^;
取り敢えずは淋、アーニィ、杳の3人が生徒会役員となります
何故か2人に纏わりつかれる書記兼会計、です