感情の名前

「別に彼を助けようとしているんじゃない」
「なに!?」
「彼とは次の授業で組むことになっている。
私は自分の時間を無駄にしたくないだけだ」
同期の奴等に囲まれていた私を、呼んだ彼の言葉。
冷然とした瞳を向けて、言い放った。明らかな侮蔑と共に・・・・
彼自身にさえ、奴等のマイナス感情は向きそうなほど・・・
「早くしろよ」
私にかけた声と共に、彼は歩み去ろうとする。
振り向きかけた一瞬を、私は忘れられない。
傷ついたような、瞳をしていた。

いつも、自信に満ちて、高みから見下ろすように。
高慢とも傲慢とも言われる態度で、彼は存在している。
高いプライド、辛辣な言葉。
気がつけば、彼はいつも硬質な瞳をしていた・・・
多分、感情を隠すために・・・
その時、私は初めて”彼”を知った気がした


「お前が来ているとは、思わなかった」
彼の、ライアン・ジェイナスの昇進祝いのパーティ。
私は上官であるグラント少将閣下について、出席した。
「昇進、おめでとうございます」
官位は、彼の方が上なので、私は敬礼をして言う。
「グラント少将の副官、らしいな」
「はい。1ヶ月前からですが」
「いい、上官についたな」
ふっと、表情を和らげてライアンが言う。一瞬後には元の硬質な表情に戻っている。
「そう、ですね」
「・・・まあ、あの人は色々、困ったとこもあるけどな」
「困った、所ですか?」
「・・・・色々な。お前も気を付けろよ?」
ライアンはちょっと心配そうに私を見る。何に、気を付けろって言うのだろう?
「え・・と・・何に、気をつけろと・・?」
聞こうとしたところで、ちょっと離れたところからライアンが呼ばれる。
彼は小さく溜め息をついてから。
「呼ばれているようだし、失礼する」
と、離れていこうとする。
「あ、ライ
私は、友人を呼び止める。
「会えて、良かった。直接おめでとうが言えたし」
「・・・・お前、少しは欲を出せよ?」
「え・・・・・?」
「お前には、能力があるんだ。隠そうと、するなよ?」
「同期の、欲目だよ?でも・・・ありがとう」
「・・・・」
私の答えに、ライがうっすらと微笑む。他の人には向けない、笑顔・・・。
どきん、と跳ね上がる私の鼓動は・・・、気付かせてはいけない。
彼の、私への感情は、多分・・・違う。私のものとは・・・。

孤高な表情(かお)をして、人の輪へ戻る彼の背を見送る。
気高い、高潔な『ジェイナス』の人間として、そこにいる。
昇りつめる野心、他を圧する覇気、人を捕らえるカリスマ。
他人がどう彼を評しようと、私は・・それが彼が作り上げた「自分」だとを知っている。
他人を切り捨て、自分を傷付け。それでも自分の置かれた位置を、壊せない。
『ジェイナス』という、『統べるもの』としての顔を作り上げていく。
周囲に、『ジェイナス』へ集う者を置きながら・・・・
弱音も苦痛も隠して悠然と笑う、彼から目を離すことが出来ない。
何故、見てしまったんだろう?あの一瞬の、彼の痛みを。
あの時から、彼に対する感情は少しずつ変わっていった。
『守りたい』と、傲慢にもそう思ってしまう。
「・・・ライに、怒られそうだな」
きっと、素のままの彼だってそんなこと、許さないだろう。

「ヴェス、帰るぞ」
「あっ・・・は、はい」
私の上官であるグラント閣下に呼ばれて、振り返る。
考え事をして、近くまでいらしてることに気がつかなかった。
「・・・?どうした?」
「いえ。考え事を、していたもので・・・」
不審に思われたのだろうか。
「ライアンと、既知だったのか?」
「はい。士官学校の、同期生ですので」
「というか、ライバル・・・か?お前がライアンを押さえて首席卒業だったな」
「ライバル、ですか・・・?それは、どうでしょうか」
私は苦笑して答える。
彼と、まともに話しを出来たのは任官した後だった。
「あいつもプライドは強い奴だ。認めていない奴に話し掛けたりしないだろう」
閣下・・・最初から見ていたのか・・・。
「・・・お人が悪い、ですね?」
「いや、楽しいからな♪あいつもお前も」
「楽しい・・・です、か?」
閣下の思考回路は・・・読めない・・・。
「ランドカーを、回して参ります・・・」
深く考えるのはよそう。また、からかわれるだけだ(^^;)

ライバル、だろうか?彼にとっての私は。
何に、なりたいのだろう?彼にとって、私は。
私にとっての彼は・・・?
自分の感情すら・・・・割り切れない。

− END −

REVERSE LEVEL-2
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