「・・スタ、ン・・・・」
普段よりも、数段高いトーンの声が私の名前を呼ぶ。
目にはうっすらと、涙が浮かんでいる。
目元にキスをして、涙を舐めとる。
「・・あ、ふっ・・・・」
瞳を閉じて、甘い吐息をつく唇に深く口付ける。
「・・・んっ・・・・」
舌を絡ませると、答えて絡ませてくる。
「キス、好きだね・・・・?」
「・・・・・」
ライはぱっと顔を背ける。
淡い光源の中でも赤くなったのが分かる。
「私も、好きだよ・・・ライとするのが」
ライは、瞳を開いて私を見上げる。少しだけ上目遣いで。
そして、何か言いかけて止める。
きゅっと、背中に回された手がシャツを掴んで答えている。
「好きだ・・・・」
お前が言えない分は、私が言うから・・・
目を開くと、暗く低い天井が見える。
「・・・・なんて・・夢・・・・」
今日、久しぶりに会って言葉を交わしたからだろうか。
「だからって、したいなんて・・・」
思わなかった、とは言えない・・・・・。
いつからこんな夢を見るようになったんだろう?
プライドの強い彼を、犯している夢を・・・・。
「サイアクだな・・・私は」
でも心の奥の願望に、嘘はつけない・・・。
「頭を冷やさないと・・・眠れないな」
グラント閣下の私邸から、今日は久しぶりに自分の宿舎へ帰ってきていた。
宿舎の裏手には、将官クラスの公邸群と隔てられてた公園がある。
めったに公邸を使う人は・・・いないが・・・。
「あ・・・・」
ある筈がない、人影を見つける。
噴水の端に、シャツ1枚を羽織った彼がいる。
その姿から将官だとは、誰が思うだろう?
脆弱ではないが、華奢に見える。
あれで白兵戦に強いのだから、詐欺だ。
「スタン・・・?」
私をその名前で呼ぶのは、今は「彼」しかいない。
「どう、して・・?昇進祝いだし自宅へ戻ったと思ってた」
「お前こそ、グラント閣下の私邸に詰めてると聞いてる」
近づいた私を、少し上目遣いに見上げる。
夢の中と、同じ瞳。どきっとする。
明らかに跳ね上がってる心臓の音が、聞こえないといいけれど。
「なんか、眠れなくて・・・・ね」
瞳をそらし、苦笑混じりの笑顔で言う。
「私も、そう・・だ」
辛うじてそう答える。口の中が渇いている。
「お前とゆっくり話が出来るなんて・・・久しぶりだ・・えっ?」
私に微笑みかけた彼を衝動的に抱きしめてしまう。
「・・・・どう、か・・したのか?」
そっと私の背に手を回し、彼は心配そうにそう言う。
「ご・・ごめん。私はっ・・・・」
はっと我に返り、抱いた手を離す。
「どうしたんだ・・・?」
彼の右手は、私の腕を捕らえている。少しひんやりとしてる。
まるきりの白色人種ではない彼の肌の色は象牙のようだ。
心配げに私を見る瞳の色は琥珀のように透明な色をしている。
「何でも、ない・・・よ」
誤魔化すように微笑んでみるけれど、上手く笑えていない気がする。
じっと見詰める彼の瞳を、正視できない。
さっきの夢が、見えてくる。
キスをして、甘い吐息をついて、喘ぐ・・・。
薄く開かれた瞼と、切なげな声をあげる唇と。
「スタン?」
私を捕らえて離さない、どこか不安げな瞳。
「ごめん、私は今日・・・どうにかしている」
私は、やっと・・言葉を吐き出す。
ふわりと。彼は私を抱きしめる。
「少し、こうしていよう」
「ラ・・・イ・・?」
「心臓の音、聞こえるだろ?」
少し、早い鼓動が聞こえる。
「お前を不安にしているのは・・・俺か?」
言葉の後で、彼の鼓動は少しだけ・・・早くなる。
嘘は、つけない。彼にも、自分にも。
彼は、嘘を望まない。嘘は見抜いてしまうだろう。
「・・・・ライのことが、好きだから。不安になる」
好きだと言う気持ちは、変えられない。
例え、お前にキライだと言われても・・・
溜め息をひとつ。彼がつく。
「俺が、他の誰に・・・こうしてやるんだ?」
抱きしめていた手を解いて、私の瞳を覗き込む。
「俺は、お前にしか・・・甘えたことは・・・ないぞ」
甘えていた?私に・・・お前が?
「信じてない顔だな・・・」
困ったような顔で彼が言う。
「俺は、お前意外に『ライ』って・・・呼ばせてないぜ?」
私の名前と同じ。ささいだけれど、大切なこと。
彼の、特別は。多分『友情』だろうけれど。
私の思いとは違うけれど。
今は、それでも幸せだと思う。
お前の困った顔も、照れた笑顔も。今は私のものだから。
− END −
<<あとがき>>
最初からユメオチだし・・・。
所詮私は、ほのぼのやおいしか書けないようです。
語彙、ないっていうのもあるでしょうけれど・・・・