思う心

「お前―――もしや・・」
思わず溜息をつく。
「トレス中佐に失礼だぞ?妙な勘繰りをしていたな?」
「いや、だって噂では冷静沈着・無表情を絵に描いたような人だって・・」
さすがにはっとして口を押さえている。
「事実ですよ」
にっこりと笑って中佐が言う。
「他人と接することを、厭っていましたからね。誰に対しても冷淡でしたよ」
「・・まあ、仕方ないだろう。貴方には貴方の理由があるんだからな」
中佐の、友人達とのある揉め事を、俺は知っているので答える。
「理由、ですか・・?」
「時効にしていいと、閣下がおっしゃって下さいましたからね」
にっこりと笑う中佐は本当にふっきれた風だ。
(親友に裏切られる気持ちは、俺には分からないけれど、 他人を拒む貴方は、貴方自身が辛そうだった)
「中佐は、俺達とは違う部隊でずっと仕事をしていた。だから参謀にと頼んだんだ。 気心が知れた者だけで集まるのは、楽ではあるが反面危険でもあるからな」
「・・・それは、そうですが」
ミズノはまだ納得していないようだ。困ったものだ。
「俺は確かにワンマンかも知れないが――他人の意見を聞かない訳ではないぞ?」
「判ってるよ。俺達じゃ、お前を止めれない」
「かもしれないからな」
かもしれない、と補足してやる。話は聞いてるだろうが、俺は。従うかどうかは別として
「私はSTOPERですか?」
「意見があれば、いくらでも?」
俺は別に無理を通したい訳じゃない。
「今はお休みいただくことが先決ですね」
「ああ。そうだったな・・ミズノ、後は頼む」
「はい」
ブリッジ中がそんなことを考えていたのかと思うと、少し頭が痛い。


「・・・失礼したな」
自室へ向かうエレベーターの中。
「は?」
「いや、あらぬ誤解を」
「ああ、知っていましたよ」
にっこりと笑って中佐が言う。
「・・え?」
俺の方が聞き返す。
「顔にすぐ出ますからね。ミズノ大尉は」
「・・そうだが。確かに・・・」
「本当に、好かれてますね?」
「ん・・まあ、好かれていると言うのか・・だがな」
苦笑しつつ答える。
俺の周りは、俺自身以上にジェイナスという名が重くある。
「・・・おや?」
「ん?」
不思議そうな中佐の声に、何かと思う。
「思われている事には、お気づきだったんですね?」
「・・?士官からの付き合いだからな? 今は階級が違うので公の場では上下関係だけれど、オフでは友人だよ」
「・・・・・そう、ですね」
くすくすと笑っている。変なことを言ったろうか?
「何か、可笑しな事を言ったか?私は」
「いいえ。私も、貴方のことが好きですよ?閣下」
にっこりと満面の笑顔でトレス中佐が言う。
「・・・。ありがとう」
面と向かって言われると、照れくさいものだ。
顔には出さないように、気をつけてはいるけれど・・・
「では、ゆっくりお休みください。 帰還まで、気は抜けませんのでお休みになれるうちに」
「ああ。後は頼む」
結局、自室まで中佐が一緒に来た。私が自室に入ったのを確認して、 ブリッジへ戻って行った。
心配はない。任せて休むことにしよう。
信頼、している。彼らに任せて・・・。

− END −

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