さっきいた階とは違う階に降りる。 最初に居たのは1階で、今居るのは3階。 窓から降りようと思えば降りれる階、かな。 「アルは、無理しないで…座ってて」 ラファがコーヒーを入れてくれて、2人で飲んで。 他にも景色がいいビルがあるとか、ビルの谷間に花畑があるとか 知らなかったことを教えてくれる。 ここに来て僕がしてたことと言えば、酒を飲むことと、花を摘むこと? (ラファの言う花とは違う花だけど) 摘むと言っても、僕の記憶にはひとつも残っていない。 見た目で寄ってきて、一晩だけのこと。 思い返してみると、随分と虚しい時間を過ごしてたのかと思う。 ここで一晩過ごすのも、『北』で一晩過ごすのも何も…変わりがない。 僕の気持ちはずっと冷えたまま。 身体が温まったって、気持ちが冷えてればすぐに冷める。 考えてる冷たいこととは別で、ラファと他愛ないことをぽつりぽつりと話す。 たくさんじゃないけれど、それが苦でもない。 話しているうちに、ラファと話すことだけ… 少しづつ話していることだけに心を捕らわれる。 「ラファは、色々なところ歩いてるんだね」 「ん…すること、ないから」 「違うよ?」 「…違う…?」 「ラファは、街を知りたいから歩いてるんじゃないかな?」 「…うん。そう、かもしれない」 「綺麗な場所、見たい?」 「きっと、どんな所にも…あるから。たくさん、知りたい」 「ラファの居るところにもある?」 「…どう、だろう。あそこは、歩けないから…」 歩けない? 「どうして?ラファの街だろう?」 「…自由なのは、ここでだけ」 ここでだけ?どうして? 南が君の居場所なのじゃないの? 「もう、遅い…」 言いたくはないのか。 ラファが毛布を僕に差し出しす。 「ラファ?」 「使って――?」 受け取って、朝のことを思い出す。 僕はこれをかけていたけれど、ラファは座ったままで何もかけていなかったと思う。 「君は?」 「平気。アルは…無理しちゃいけない」 やっぱり。1枚だけ、だよな。 「―――一緒じゃ駄目なの?」 大きい毛布じゃないけど、使えない訳じゃない。 「…一緒…?」 怪訝そうに、返される。 「その方が暖かいだろ?」 「……ん」 難しい顔をして頷いた。そんなに構えることだろうか?? 「こっち、来て?ラファ」 やっぱり移動するのは少し辛いから、ラファにお願いする。 「うん…」 ラファが僕の目の前に座る。 「そのまま横になって」 言われるがまま、ラファが横になる。 僕はラファに寄り添うようにして横になり、毛布を2人で被る。 1枚の毛布は2人には少し小さいから、抱きしめるようにしてぴったりと寄り添う。 「大丈夫かな?」 嫌じゃなければいいなと思って訊ねると。 「うん…」 不安そうな顔が答える。 何が、不安? 「おやすみ」 僕がそう言うと今度は 「…おやすみ…?」 不思議そうな顔で、疑問系で答えた。 何だろう? 「どうかした?」 「…なんでも、ない…」 何だろう?何でもない、ってことはないのだと思うけど。 男2人でくっついて眠るなんてしないから、なのかな。 それとも、おやすみって、言われたこと?そんなこともしていない? 目を閉じているラファを見て、本当に君の普段が気になってくる。 と、いきなりラファが目を開いた。 こんな薄暗い中でも、綺麗な色だ…。 「どうか、した?」 いつになく、動機がして。誤魔化すように僕は聞いた。 「……アルは、いい…の?」 「え?」 「――僕が、そうした方が、いい……?」 少し、眉を顰めてラファが言う。 なにをするって? 「何のこと?」 「……あ、怪我…してる、から…。なら、どうして……?」 何を言ってるんだろう? 「ラファ?何をするって?」 「皆…。僕を呼ぶのは…する、ときだから」 する、って…。 待って。この状態で、言うってことは…そういうこと? しかもラファ。皆って…言った?それは普段、南でということ? 「…ご免。アルは…別、だよ…ね」 君は一体、南でどんな扱い受けてるの? 南の守護である称号を持ってるのに。 誰かに呼ばれて、身体を開いてるって?それを望んでるって? 「アル、手…離して?嫌、だろ…う?」 小さな声にはっとする。 「え…?」 「ご免。忘れてた…。僕は…汚い、から…離して」 ラファ? 「どうして。汚いの?」 「皆、言うから」 「君が、汚いって?」 「うん」 「でも皆君を…抱くんだろう?」 びくり、と腕の中のラファが身体を強張らせる。 やっぱり、そうなんだ。 「お願い、離して…アル」 「どうして?」 「アルまで汚れる…」 「SEXすると汚れるの?だったら僕だってたくさんしたよ。僕も汚い?」 「アルは、違う。僕は…したくて、した訳じゃない」 望んでる訳じゃないんだ。 少し、ほっとした。 「したくてしたんじゃないのに?汚れるの?」 「……皆、言うから…」 「それを、信じたの?ラファ」 好き勝手に抱いて、それで汚いって?なんて身勝手なことをするんだろう。 傷つけてることを判らない訳はないだろうに。 好き勝手に扱ってしかも、南の守護…? 完璧な防御と、完璧な治癒。 そんな相手を守って、癒してるの。ラファ。 どうして…? 僕なら、君を傷つけたりしない。 ……僕なら…? 「アル…」 小さく、ラファが腕の中で動いた。 「ラファは汚くなんかないから。だから、一緒にいて?」 「…無理、しなくていい…から」 「無理じゃないから、こうしていてラファ」 「…ありがとう」 「こちらこそ?」 ぎゅっと、少し抱きしめる手を強くする。 「ラファが助けてくれなかったら、僕はこうしていないよ?」 「そんなこと…ない」 「僕はそう思ってるから」 「――」 「おやすみ、ラファ」 「ん…おやすみ」 2010/11/23
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