Demilitarized Zone -vol.6

居場所は日毎に移動した。
どのビルも窓から、屋上から、綺麗な景色が見える場所だった。
「ラファの秘密の場所じゃないの?」
窓から外の明かりが綺麗に見える部屋で、毛布を2人で被りながら
「秘密じゃないけど。誰も聞かないから、教えたのは始めて」
「聞かれたら教えるの?」
「……。判らない」
少し考えてから、そう答えた。
「でも僕には教えてくれるんだよね?」
「いらなかった…?」
「ラファが教えてくれるのは嬉しい。でもどうして?」
意地悪かもしれない問いかけ。
「……一緒に…」
抱えた膝に顔を埋めて言うから、よく聞こえない。
「うん?」
ラファの顔を覗き込むようにして僕は促す。
「一緒に、見たいって…思ったから」
視線だけ僕の方に上げて、答える。
…か、可愛い。
困ったな。困らせようと思ったのに、僕の方が困らされてる。
人馴れしてないとは思ったけど、反則…。
自覚していない方が性質が悪いって、こういうことなんだろう。
「ありがとう」
悔しいなぁ。悔しいから、満面の笑顔で答える。
ラファの顔が朱に染まる。
「お礼、言うのは僕の方…」
ラファの素直な反応が凄く嬉しい。
普段なら、ここで冷めてしまうんだけれど。不思議だ。
「眠ろうか、ラファ」
「うん。あの隅のとこ、朝あったかいから」
「判った」
荷物を持って移動する。
あの日から変わらずに、僕がラファを抱きしめるようにして眠る。
「おやすみ、ラファ」
「おやすみ…」
ラファの寝つきはいい。僕の方がいつも後なのだけど…
あまり気持ちよさげに寝ているから、いつもちょっとイタズラする。
「…んっ…」
そっと背中を撫でてみたり
首筋にキスしてみたり
眠っていても、素直に反応が返ってくる。
目が覚めている時にしたら、恥ずかしそうにする?それとももっと誘う?
知りたい気がするけど…
ラファは逃げるかな?それとも受け入れてくれる?
するのは多分簡単。
だけど、僕は本当にそうしたい?
半端な気持ちで、『南の守護』に手を出すなんて出来ない。
もしも、前線に出てきたとしたら僕はラファに攻撃できる?
前線だけとは限らない。後方支援だってそこにいたら敵…
敵。なんの敵?
そもそも僕は、何に向かって戦ってるのか意義が見えなくなってる。
そんな戦いの中で、ラファに攻撃をできる?
…解からない。
ラファと居ると凄く落ち着く。心が穏やかでいられる。
こんな街の中でも、綺麗なものがあるんだって気づかせてくれる。
こうしていられるのが、幸せだって…思う。
ラファはどうなんだろう?
僕が怪我をしているから一緒にいてくれるけれど。
本当は、帰らなくていいの?
こんな風に、素性もわからない僕の横で眠って。
僕が危険だって思わない?
少しでも僕と同じように…感じてくれる?
一緒に景色を見たかったって…嘘じゃないよね。
僕が『北』に君が『南』にいる以上…
ずっとこうして2人でいる訳にはいかない。
戻らなきゃいけない。
それを君は、寂しいって思ってくれる?
離れたくない。そう思うのは僕だけ?
忘れるとは思わない。忘れられるとも思わない。
だけど…
『敵』でいる限り、いつ戦わなきゃいけないかわからない。
そこにいる以上、いつラファが傷つくかわからない。
例えば命を落としても、僕にはわからない。
わかった時には戦いの跡なんてなくなった後だろう…
そんなのは…嫌だ。
じゃあ、どうすればいい?
僕の気持ちだけじゃ駄目。ラファの気持ちが知りたい。
僕は、抱きしめる手に力を込める。
「…アル…傷、痛む?」
「ううん。でも、このままでいさせて」
「うん…?」
不思議そうにでも頷いて、ラファはまた目を閉じる。
「眠れないなら、もう少し一緒に、起きてる?」
そっと。
ラファの手が僕の背中に回される。
触れられた所が暖かい。
「大丈夫。僕ももう、眠るよ?」
「うん。じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
このまま2人でいられたらいいのに。
だけど、一緒にいられるのは多分…もう少しだけ。
判ってるけれど、もう少しだけ。こうしていさせて。

2010/11/25

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