自覚したからと言って、急に変わる訳じゃない。 それは俺の気持ちだけのことだ。 嫌われてはいないだろう。だがそれ以上だと、どうだろうな。 「あの、何か…?」 じっと見ていたようだ。 「いや、お前を見ていただけだ」 「え?あ、はあ…その、どうして?」 「さあ、どうしてだろうな」 本当に、どうかしてるのかもしれないが。自覚してしまえば、こんなものか。 「エドウィン?」 「あ、な、何でもないです」 俺から視線を逸らして、書類に目を落とした。 何だ? 「どうかしたのか?エドウィン」 「な、何でもないですって」 「そうか?ホントに」 じっと見ていると、ちらっと俺の方を見る。 そしてまた逸らす。 小動物みたいで可愛いな…やっぱり。 「それの処理が終わったら帰るぞ。夕飯、付き合え」 「!はい」 ぱっと顔を上げて嬉しそうに答える。 やっぱり可愛い。 男相手にそう思うのも変だとは思うが…仕方がない。 俺も早くこれを終わらせるか。 「ホントに、手馴れてますよね…小隊長」 「野営もあるから自然とな?」 俺が包丁を使えるのは意外らしい。 外で食べるのも嫌いではないが、時間を気にする必要がなくなるのと、 俺が飲まないのをエドウィンが気にするので…最近はよく俺の家で食べることが増えた。 あいつらに後で冷やかされる心配もないのも、理由の1つではある。 「皿、出してくれ」 「はい」 大した料理が出きる訳ではないが、好き嫌いもないようなので問題はない。 ただ、エドウィンの食の方は、かなり細いと思う。 野菜類だけは大目に食べれるようだが。 自分の食べられる量を解かっていて、その分だけを綺麗に食べる。 きちんと躾けられた、というのが分かる。 「小隊長?」 「…それだ」 「はい?」 今でも呼び方を変えていない。 「名前で呼べと、前にも言ったと思うが?」 「む、無理です」 「どうして」 「だって、小隊長は小隊長で、私にとっては上官ですし」 「それは変えられないが、これだけ一緒にいるのに。打ち解けてくれないのは寂しいぞ?」 「!そ、そんな訳じゃ、ないです」 大げさに、溜息をついてみると、慌てたようにエドウィンが答える。 「じゃあ、名前を呼んでくれ」 我ながら意地悪なことを言っているんだろうとは自覚している。 「で、でも」 「2人でいる時なら構わないだろう?誰も怒る奴がいない」 「…本気、ですか…?」 「ああ」 「…え、と…ヒュー…イ」 「ん。それでいい」 軽く頭を撫でてやると、途端に顔が真っ赤になる。 「何故照れる?」 「な、慣れない、から」 「慣れないことをすると、照れるか?」 「この場合は、そう、です」 所在なさげに視線を違う方に逸らして答える。 「じゃあ、もっと慣れない事を…してみるか?」 「?」 俺が何をするか、判らないという顔をしている。 頭を撫でていた手で頭を引き寄せる。 「小隊、長?」 また名前じゃないそれを声にした口を塞ぐ。 「んっ」 「名前を呼べと言ったろう」 俺は、間近で見開かれた瞳に笑いかけて言う。 答えを聞かずに、直ぐにまた口付ける。 「んんっ」 強引に、歯牙を割る。 逃げる舌を絡ませて、舐めて。 青碧の瞳が潤んで、半ば閉じられる。 一度、口付けから解放する。テーブル越しは、不安定だ。 放心したように、ゆっくり瞳を開いて俺を見る。 「…ど、して…」 「逃がさない、ため…かな」 階級なんかで、呼ばれたくない。 頑なにそう呼ぶなら、壊すしかない。 俺は、エドウィンを抱き上げた。 「!?」 「おしおき」 「え?な、なんの?」 「黙って」 「小隊…」 最後まで言わせないうちに口付ける。 「階級は禁止だ」 「は…ぁ」 何も言わせないように、抱き上げたままで口付けを繰り返して部屋を移動する。 寝室のベットに、エドウィンをゆっくりと降ろす。 「あの、えと…小、じゃなくてヒ、ヒューイ、酔って、ます?」 「ワイン1杯で酔うわけないだろう。素面だ。心配するな」 「じゃ、どうして」 「…お前が好きだから、じゃ理由にならないか?」 金の髪を撫でながら、覆いかぶさるように倒れこむ。 「…本当、に…?」 見上げてくる瞳。 子供ではない、俺を誘う、艶めいた瞳。 無意識ではなく、問いかけて濡れた青。 「好きでもない相手に、キスはしない」 気持ちは、通じているのだと思っていいのか? 額に、頬に、そして唇に、キスを落としていく。 「ヒューイ、好き…です」 小さな声で、俺を打ち抜く。 「俺もだ、エディ」 2010/11/2
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