その日、私は確かに油断していたのだと思う。 中立地帯に外の抗争を持ち込まないのが暗黙のルールだったとしても、 自分の立場と、下手の目立つ容姿を考えれば慎重に行動するべきだった。 「ほら、金出せよ?坊ちゃん」 「…」 相手は5人。素手だけで相手をするには私にはきつい人数だ。 かと言ってここでPHYを使う訳にはいかない。 財布だけで済むなら、その方がましか… 考えて、財布を差し出す。カード類は入れていないから大丈夫だろう… 「ふん、これっぽっちかよ」 「後は自分が金になってもらうしかないかなあ」 結局、それか…。仕方がない。無茶は承知だが、やるしかない。 「それは遠慮したい」 言って私は、私の後ろで腕を押さえつけていた男に蹴りを入れる。 「こいつ!」 一斉に掛かってくる男達を遣り過ごし、殴り返す。 どうしても殴るより殴られる方が多くなる。 仕方がない。制御リングを外してPHYを使おうとしたところへ後頭部に激痛が走る。 「っ!!」 振り返り、蹴りを入れる。長いパイプが転がる。 まずい、頭…めまいがする。 私の動きが鈍ったのを幸いに、そいつらの攻撃が激しくなる。 膝を突き、うずくまる私の腹を、背中を、踏みつけるように蹴る。 (このまま、殺される…かも、な) ふと、そう考えるくらいに攻撃が続いた。 それならそれでも、売られるよりはいいか…。 そう考えた所で、意識が遠のいてきた。 何かの音がした。 声がした。何を言ってるかは私にはわからない。 蹴りを入れていた気配が無くなった。 助かったのか、それとも…感じなくなったのかどちらだろう? 私は意識を手放した。 2010/11/22
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